介護でつながる輪

“介護が始まる前”に押さえておきたいこんなこと

  • ハルコウさん (東京都在住)
  • 少子高齢社会ライター

この連載ではこれまで3回に渡って、介護の始まり→介護保険サービス制度→施設での介護と具体的な流れをみてきました。今回は介護世代のお役立ち情報として「実際に介護が始まる前に押さえておきたいポイント」について、ご紹介したいと思います。自分の家族にはまだ早い・・・と思っていても、突然、介護生活が始まることは誰にでもあり得ること。とはいえ、早くから介護保険や施設について学ぶ気には、なかなかなれないかもしれませんね。そんな人でも、日常のちょっとしたことへ事前に気を配っておくだけで、役立つコトは結構あるのです。
※エピソードは、いくつかの実例を元にしたフィクションです

○親の口座、管理どうする?

「実は親父のこと、なんにも知らないな」。

三原篤史さん(42)は東京都内在住の会社員です。働き盛りの管理職で、ふだんは週末もゴルフに子供の習い事の送迎にと多忙な日々なのですが、この週末は九州の実家で頭を抱えています。

実家のテーブルを囲んでいるのは、やはり東京で嫁いだ姉(47)と、母(75)です。77歳の父親が、今週初めに自転車で転倒。大腿骨の骨折と共に頭を打っているため、検査も含めて1~2カ月の入院が決まったのです。

救急車で運ばれたこと、すっかり母親の気が動転していることもあって、兄妹が急遽、集合しました。実家に来るのは今年のお正月以来です。
入院が思ったより長引きそうなこと、退院後もリハビリと介護が必要なことに加え、なにより問題は実家の金銭管理や税金や保険などの手続きをすべて、父親が一手に担っていたことです。
入院手続きに介護保険の申請、場合によってはリフォームと、やるべきことは山積みですが、母親は「お父さんに聞かないとわからんわ」というばかりで、兄妹は

「肝心なことが分からない」

という事態に困ってしまいました。

たとえば、入院費用の支払いをするための口座です。普段、生活費の出し入れに使っている口座とは別に、父親が管理する預金口座がいくつかありました。ところが、これらの口座の暗証番号は父親にしかわかりません。

「通帳と印鑑ならあるんだけれど・・・」

と母親は言いますが

「たしか本人でないと、委任状が必要よね」

と、姉はため息をつきます。

「面倒がってはだめだよな。父さんの容態が落ち着いたら、一緒に委任状をつくろう」

篤史さんは言いました。

たとえ親子とはいえ、お金のことでもめた話はよく聞きます。後々、両親や親戚にもお金の使い途を説明できるよう、委任状をはじめ記録はしっかりとる必要があると、篤史さんは考えたのです。小口のお金の引き落としには、家族用のキャッシュカードを新たに作ることも必要になるでしょう。
やるべきことはいろいろあります。
篤史さんは、これから必要になることを、紙に書き出してみることにしました。

○押さえておきたいことメモ

【入院・介護申請編】
・ 入院費用の支払い口座。通帳、印鑑、委任状をそろえる。名義者本人以外が引き出せる家族用のキャッシュカードの作成も。
・ 入院、介護の予算はいくら?
・ 不動産など含めて貯金総額は?
・ 月々の年金はいくらもらっているのか?振り込まれている口座はどれ?
・ 民間の保険の契約内容は?保険証券をチェック
・ 健康保険証はどこ?
・ 介護申請に必要な「介護保険被保険者証」はどこ?
・ 介護保険に必要な「主治医意見書」を書いてくれるかかりつけ医は?
・ 介護の相談窓口となる最寄りの「地域包括支援センター」はどこ?

【生活編】
・ 連絡した方がよい知人や仕事関係先は?
・ カギの保管場所は?
・ ゴミ出しの日はいつ?
・ パソコンのパスワードは?
・ 見守りサービスや家事支援サービスなど、実家で使えるサービスは?
・ 公共料金や新聞代など月々の固定費はどうなっている?

○向き合うことの大切さ

「介護保険被保険者証ってなあに?そんなものあるの?」

姉はちんぷんかんぷんのようです。

「ネットで調べたら、65歳の誕生日の前に自治体から郵送されるらしいよ。もう70過ぎているんだから、来てるはずだよ」

篤史さんとて、にわか仕込みです。

「大事なものは、居間の引き出しに入れているはずよ。カギの場所ぐらいはお母さんもわかるわよ」

やるべきことがわかったことで、母親は少し気を引き締めたようです。

「そういえば、お父さんのゴルフ仲間に連絡しないと。来月、予定があったかも」。

連絡先を探し始めました。

「こういうことを、本当は父さんが家にいるときから話しておけばよかったんだな」

自分が作ったメモを眺めて、篤史さんはつぶやきました。
父親本人は、骨折に加えて頭を打っていることもあって、まずは安静が必要です。すぐに事務的な質問攻めにするわけにはいきません。長年の習慣とはいえ、母親をはじめ実家のことは、すべて父親に頼りきりだったことが、今になって痛感します。

入院中とはいえ、父親はきっと快復するはずです。まだ遅すぎたわけではありません。

「これを機会に、両親と一度、ちゃんと話してみよう」

これから始まる介護の道のりを見据え、篤史さんは心に決めました。

「介護の前」の心構えに役立つサイトはいろいろあります。東京都のつくる「介護準備知識セルフチェック/東京都仕事と介護の両立支援サイト」は、関連サイトへの導入も充実していますので、こちらもご参考にしてみてください。

次回は、介護保険や施設と言った〝介護そのもの〟ではなく、介護ライフを支える周辺サービスや、心の助けになる本や漫画作品など、介護に関わるひとが元気になれるお助け情報をお届けしたいと思います。

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